辞書の日
きょうの本棚
①「教養は「事典」で磨け : ネットではできない「知の技法」」成毛眞 光文社(028:選定図書目録)
インターネットならキーワードひとつでなんでも見つかるとおもっていませんか。ググっても見つからない、未知の世界が辞書や事典にはあります。適当にページを開けば必ず知らない何かが載っていて、思いもよらなかった知見が得ることができるのも辞書の魅力なのです。
②「辞書の鬼」 井上太郎 春秋社(289:個人伝記)
「日本語論」など、言葉に対する視点を磨き上げ、さまざまな試行錯誤を経て「辞書の鬼」と化し、いくつもの優れた辞書を独力で作りあげた入江祝衛の伝記。
③「〈辞書屋〉列伝 : 言葉に憑かれた人びと」 田澤耕 中央公論新社(803:参考図書)
世界最大の「オックスフォード英語辞典」
日本初の国語辞典である『言海』
ヘブライ語を死語から甦らせた「ヘブライ語大辞典」
カタルーニャの地位向上をめざした「カタルーニャ語辞典」等々。
辞書屋たちの長く苦しい道のりを、自らも辞書屋である著者が活写。
④「辞書になった男 : ケンボー先生と山田先生」佐々木健一 文藝春秋(813:日本語・辞典)
『明解国語辞典』をともに作ってきた二人はなぜ決別したのか。なぜ一冊の辞書が『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』に分かれたのか。昭和辞書史最大の謎がいま、解き明かされる。NHKで放映された傑作ノンフィクション。
⑤「悩ましい国語辞典」神永曉 KADOKAWA(814:日本語・語彙)
辞書編集37年の立場から、言葉が生きていることを実証的に解説。意外だが、江戸時代にも使われた「まじ」。「お母さん」は、江戸後期に関西で使われていたが、明治の国定読本で一気に全国に。
⑥「字書を作る」白川静 平凡社(821:中国語・文字)
文字学の系譜と字書のあり方、自らの文字学について綴った文章と、『字統』『字訓』『字通』の概略と編集方針を記したそれぞれの巻頭文を収録。文字学入門に最適の一冊。白川漢字学の入門書の位置付けと言って良いが、入門書としては歯応えが有り。
⑦「辞書とアメリカ : 英語辞典の200年」本吉侃 南雲堂(833:英語・辞典)
アメリカで辞書がどのように編集されて来たか、ウェブスター大辞典を中心として希少な資料も駆使して詳述した本邦初のユニークな辞典編纂史。
⑧「舟を編む」三浦しをん 光文社(913:日本文学・小説)
映像化もされた名作。辞書編纂の小説といえばまっさきに思い浮かぶ一作。
出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。
⑨「みんなでつくる1本の辞書」飯田朝子/文 寄藤文平/絵 福音館書店(絵本)
棒のような形の長いものの1本、映画やテレビの作品の1本、柔道のや剣道の勝負の1本。身の周りにある「1本」と数えるモノ・コトを集めて、辞書をつくります。
きょうは何の日? コラム
「辞書の日」
1758年のこの日は、アメリカの教育者であり辞書製作者である「ノア・ウェブスター」の誕生日。アメリカではウェブスターといえば辞書という意味となるほどです。辞書出版社では、この日を中心にイベントを開催するなど、辞書にまつわる活動が展開されています。
「ノア・ウェブスター」
かれは「アメリカの学問・教育の父」と呼ばれ、アメリカが言語においてイギリスから独立すべきであるという理想を持ち、アメリカ特有の単語や用法などの採録に力を注ぎました。かれの誕生した当時はアメリカはイギリスの植民地でした。
「英語の綴り字改革」
ウェブスターは、アメリカ式の英単語の綴り方を提唱しました。たとえば末尾が「-re」ではなく「-er」にする(例:centerなど)、「-our」ではなく「-or」にする(例:colorなど)、これらはすでにアメリカ英語として定着しています。
そもそも、英語の綴り字が発音どおりでないのは、英語に少しでも触れたことのある人ならだれでも知っていることでしょう。ですが、かれが綴り字改革をしようとしたのは、綴り字が発音と違うというより、アメリカがイギリスの文化的から独立をすべきだというアメリカ愛国主義的な思いが強かったからのようです。
「アメリカ語辞典」への道
当時のアメリカの植民地人には英語を第一言語としない者も多く、英語を用いる場合でも、スペリングや発音、語法にかなりの差異があったため、ウェブスターはこれを標準化しようとしました。ところが、それを果たす役割をになうべき初等学校には、まともな英語の教科書もなかったのです。
かれは英語の現状について、イギリスの上流階級が彼ら独自の基準によってスペリングと発音を定めた退廃した状態にあるという不満を抱いていました。それを自分たちの生来の言葉にしようという理念をもとに教科書として「英語文法の原理」をつくりました。
つづけて最初の辞書『簡約英語辞典』(約4万語収録)を出版し、綴り字改革を押し進めました。その翌年から、これを拡充した包括的な辞書の編纂を開始し、20年の歳月を費やして完成させたのが1828年に『アメリカ語辞典』として出版された辞書です。
この約7万3千語が収録された辞書に対する市場の反応は冷ややかでした、ウェブスターの辞典が普及し始めるのは、かれの死後のことです。
「銀河百科辞典」
辞書・辞典といえばアイザック・アシモフのSF小説『ファウンデーション』が思い浮かびます。
タイトルにあるファウンデーションとは、銀河百科事典を編纂するための財団のことです。
銀河帝国は滅びの定めにあり、滅亡後、人類社会は長い混乱の時代となることが予見されます。この予見は歴史心理学という架空の学問によってなされます。その長い混乱の時代を少しでも短くするために現代文明を保存するための百科事典をつくることを目指しているのがファウンデーションなのです。
銀河帝国がでてきますがスターウォーズ的な世界とは一線を画すお話です。アクションも派手ではなく、異星人もでてきません。古典ともいえるSFです。未読の方は、ファウンデーション ―銀河帝国興亡史〈1〉 (ハヤカワ文庫SF) からがよいでしょう。
それでは、また次回。
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司書のビブリオ9です。
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そんなあなたにいろいろなテーマで本をご提案します。